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シカゴ大学教授 山本尚先生のコラム

山本尚教授は、2002年に名古屋大学よりシカゴ大学に移られ、現在も世界の第一線で活躍されておられます。特にアルキルアルミニウムやホウ素を中心としたルイス酸触媒研究の第一人者であり、当社は山本尚教授より長年に渡りご指導頂いております。この度、山本尚教授の有機合成研究に対する熱い思いをコラムにしていただきましたので、ご紹介いたします。

新手一生をモットーに

「新手一生」升田名人の扇子広島県出身の升田幸三さんは、名人に香車を引いた男といわれた伝説の将棋名人である。その痛快な口述自伝には「さわやかで圧倒的な新手」を一生の目標としてきた氏の身上がよく表れていて、一気に読み通せる。それもあって、有名な氏のモットーである「新手一生」の扇子を私のグループホームページの表紙にさせていただいている。有機合成では、新手を見つけることこそがその学問発展の鍵だと信じているからである。

これまでも、ほぼ20年くらいの周期で、有機合成は終わったと繰り返し言われてきた。「我々は今やほとんど何でも作ることが出来、有機合成の発展期は終わった」と言うことである。わたしの知る限りでも、これまで3回くらいはこの議論があったと思う。そして、しばらくすると、この話は下火になっていつしか忘れ去られていく。他の学問分野がアナリシス(分かること)を目標とするのに対して、シンセシス(創ること)を基本とする有機合成はこうした流行型の学問とは無縁であるからだろうか。アナリシスを目標とする学問では、分かってしまうと、それで流行が下火になることが理解できるが、シンセシスは新しいことを作ることにその真骨頂があり、いつまでもその発展には限りがない。アナリシスにおいては答えはひとつであるが、シンセシスでは無数の答えが存在する。新しいコンセプトが世に出ては、これを凌駕する別のコンセプトの出現を待っている。

一方では、アナリシスにおいても、ひとつの発見が別の疑問を生み出すことで、連鎖的に新しい発見に繋がっていくという議論もある。しかしこれは、別の新しい学問の分野となって展開することが多い。主題が変わるからである。これに対して、有機合成の場合には、分子の構築という大目標があるだけで、とくに限定された手段や目標がないため、いつまで経っても、尽きることがないのであろう。例えば、「人間のすみかを作る」という永遠のテーマを目標にしている建築とその状況は似ている。

有機合成での思わぬ新手を雑誌で見ることは本当に楽しい。なるほどこんな切り口があったのか、こんな作り方がと、思わずヒザをたたく。これこそ研究者の醍醐味である。私は基本的には、反応開発を主テーマにして研究を進めてきたが、時々は天然物の合成にも手を出す。天然物の合成でも、当然であるが、答えは無数で、その中に競い合いの面白さや、それぞれ作者の個性を存分に楽しむことが出来る。著者を見ないでも、ああこれは誰それの作品だと分かることが多いが、こうなると、やっと有機合成屋になったと実感するのかもしれない。

その昔、野崎一先生が、「苦役と思うような研究など、決してやるな」と口を酸っぱくして言って居られた。詰まるところ、本当に面白い、わくわくする研究はそう多くない。わざわざ研究を詰まらなくしているのではないかと、思うことすらあるが、自分の研究でも、共同研究者のペースで、いつの間にか面白くなくなっている場合があり、自分でも愕然とする。最近では、少し遠い目で研究を見ることが出来るようになってきて、共同研究者のペースに巻き込まれることが比較的少なくなってきたが・・・。


   

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